文・写真:草本利枝
4月9日快晴。対話工房のメンバー、岡さんの息子である鈴之助くんは、この日女川第一小学校の一年生になる。仮設住宅で暮らし、秘密基地を作っている彼に双眼鏡をお祝いにプレゼントした。
いつもはやんちゃな鈴之助くんもネクタイを締め一張羅を着て、今日は何だかお兄さんにみえる。名前の入った新しいランドセルやピアニカがピカピカと眩しい。
鈴之助くんが通うはずだった第一小学校は地震の影響で現在使えない。入学式は高台にある女川第二小学校で行われた。6年生になった姉の海咲ちゃんもお祝の曲を奏でるブラスバンドの旗手として迎える。新入生は24名。震災後、引っ越していった家族が多いと聞く。鈴之助くんもしばらくは第二小学校で授業を受けることになるようだ。
双眼鏡を覗きながら、明日から給食が出るんだよと嬉しそうに話す帰り道、トラックが行き交う彼の通学路には何もない。建物は津波が奪い去った。
しかしこれからまた新しい物語が生まれてくるに違いない。双眼鏡の向こうに見える未来には、これからどんな景色が映るのだろうか?
草本 利枝 Toshie Kusamoto
(写真家)
京都市在住。同志社大学文学部、東京綜合写真専門学校卒業。 1998年に第11回、第12回写真「ひとつぼ展」入選。 2007年に個展「ZIGOKU」(PUNCTUM Photo+Graphix Tokyo)。 2009年度グッドデザイン賞を受賞したダンススタジオ兼神経難病ALSの患者独居生活を構築する「ALS-D project」のドキュメンタリー映像を担当。2010年に出身地の大分県別府市の倉庫を自ら改装したギャラリーの開設と運営に関わり、個展を開催。現在は身体表現と障害がある人など、異なる領域と交流する身体の撮影を続けている。
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